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マフラー
written by りょう  


「行ってきまーす」

天道道場の門をくぐって道路に出ると、
冷たい風が体に刺すようにあたった。

「さ、さむー…」

季節は2月なかばで、まだまだ気温は0℃を下回る。

どんよりとした空は、今にも雪が降りそうなぐらいだった。

そんな中、あかねは美容院へと足を運んでいる。
髪を切ると言っても、今のあかねの髪型は、ショートカットだったものが少し伸びてボブになったくらいの長さだった。

暫く歩いて、商店街の前を通りかかるその時。

「よっ」

声をかけられた。
その人物は、毎日嫌と言うほど顔をつきあわせている、あかねの許嫁、早乙女らんまであった。

「肉まんいる?」
「今から用事あるからいいわ」
「ほー、どこか行くのかよ?」
そう言いながららんまは、がさがさと左手に抱えている紙袋から肉まんを一つ取り出し、ぱくっとかぶりついた。

ほかほかと白い湯気がたち、しょうゆの匂いがあたりにたちこめる。

(美味しそう…)

一瞬肉まんの香りに惹き付けられたあかねだったが、そこは堪えて肉まんからふいと目をそらした。

「今から美容院に行くのよ。」
「この寒いのに切るのか?もう伸ばしたりしねーの?」
「………」

あかねは思いっきり、呆れ顔でらんまを見る。
(それをらんまが言う?)

はあ、ため息が、白い湯気となり、消えていく。

(あの時言ったこと、忘れてるんだ……)

ーーーとにかく、おれは絶対短い方が好…

「おい、あかね?」
「もういいからっ」

あかねは、“あの時”のらんまの台詞が頭をかすめて、気恥ずかしくなり、思わず声をあらげてしまった。

らんまはそんなあかねを、怪訝そうに眺めてから、首をひねった。

「おめーがそんなにムキになるって事はなんかあるだろ。なんだよ?」

「ら、らんまには関係ないわよっ。もういいでしょ!?」

(また好きな奴の為にでもやってんのか~?)

「ったく、可愛くねーな」
「どーせっ」
「で、なんでだよ。」

(理由を教えろよ。)

らんまは表面上何でもない風を装ってはいたが、内心はかなり、本気だった。

「しつこいわね!」
「うるへー、で?」

「………。」

あかねは、困った風にらんまを見た。少し頬が赤らんでいるのは寒さ以外の理由があったかもしれないが、らんまはそんな所には気にも止めず、じっと次の言葉を待った。

「……それは…。」

『ニイハオ、らんま☆』

しかし、突如現れたシャンプーによって、話の腰はポッキリ折れてしまった。

うなだれるらんま。

そんな彼にふわりと暖かいものが首に掛かった。

「ん゛?」
「ん~、まだ長さ足りない。」
編みかけのマフラーがらんまの首に巻かれていた。

「なんだこれは。」
「見ての通りマフラーね。出来たららんまにプレゼントするある。楽しみに待つよろし☆」

「ばっか、あちーよ。おれはいらね…って」
らんまが気づいた頃にはあかねの姿は道路の向こう側まで行ってしまっていた。

小さくなっていくあかねの背中を見送った頃には、シャンプーもマフラーの続きを編むと言って、そそくさと、その場を立ち去っていた。

(あと少しで聞き出せたのに…)



うー、わんわん…
カチャカチャ…

犬の遠吠えと、各家で夕げのしたくの音がリズミカルに聞こえてくる。

「ただいまー」

そんな中、あかねは天道家に帰宅した。

「いつものあかねね」
とかすみ。
「短いと楽よねー」
となびき。

彼女の父親とらんまの父親は囲碁に興じていて彼女に「お帰り」とだけ告げた。

あかねが自室に荷物を置きに行こうと歩みを進め、階段にさしかかったところで、ばったりとらんまと鉢合わせになった。

「お、おかえり」

らんまの右手には、ラッピングされた袋が握られていた。
「……」

あかねは即座に、理解する。
“アレ”はシャンプーからのプレゼントだと。
“アレ”はおそらく手編みのマフラーだと。

「ただいま…」

(受け取ったんだ、マフラー…)

「あのよ、さっきの話だけど」

ラッピングされた袋を隠しもしないで、らんまの口から出てきた意外な台詞に、脱力感を覚えるあかね。
「あんたね、いいかげんしつこいわよっ!」

(言い訳するかと思えば…)

「なんだよ、さっき言いかけてただろ?気になるじゃねーか」

「もぉ、らんまには、ぜっったい言わない!!」

ふんっと鼻息を荒くしてらんまの隣をすり抜け、階段に昇ろうとしたとき、“あかね”と後ろから呼び掛けられた。

あかねが振り向くと同時に何かが目の前に投げられ、半ば反射的にそれを掴む。

それは、さきほどらんまが持っていたラッピングされた袋だった。

「え?」
「やるよ、開けてみれば?」
「……」

しゆるりと、リボンをほどき、中身を取り出すと肌触りの良い、なめらかな質感の大きなストールが顔を覗かせた。

色は濁りのない澄んだ、そして深みのあるスカイブルー。

「シャンプーの編んだマフラーじゃなかったのね」

「んなの、貰ってねーよ。」

「でも、なんで、急にこれ、くれたの?」

あかねは、うっとりとストールを眺めながら尋ねる。

「おれは短い方が絶対好きだ」

あかねは、ストールから視線をらんまへ移動した。

らんまはほんの少し照れくさそうに、

「前、おれがそう言ったから短くしてんのか?」

真っ直ぐあかねを見つめながら、そう告げる。


かあああっ

「あ」

あかねは、火が出そうなくらい真っ赤になった顔をストールで隠した。

恥ずかしい気持ちでいっぱいになったが、いつもの様に誤魔化し通す余裕が今のあかねにはなかった。


「うん」

素直にそう言うほかなかった。

「っつ!!」

いつになく素直で、さらには顔を赤らめながら、ストールを胸に大切そうに抱いているあかねを見て、らんまは言葉を失った。

(か、かわいい…)

「あ、の。ほら、髪が短いと首を冷やすだろ?だから使えよ、それ。おれにも責任あるしなっ…悪いと思って…」

「うん、ありがと。らんま」

ふわりと、微笑みを浮かべるあかねに、再びらんまは言葉を失った。

「いや…」

とたとた。

あかねがゆっくりらんまに近づいて、彼の服をきゅっ…と引っ張った。

ちゅ。

少し前屈みになったらんまの顔が、あかねの背丈まで近づくと、シャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、柔らかな感触が頬から伝わった。

「明日から使わせてもらうね」

そして、あかねの声が耳元で聞こえて、耳にもかすかに柔らかいものが触れるか触れないかのギリギリのラインで感じとれ、それだけでもう完璧にらんまの思考は停止した。

ぱっと、らんまの服から手を離したあかねは、ストールを抱きながら自室へと足早に去って行った。

いつも触れたいと、おもっている彼女の方から、触れてきてくれるなんて。

それもあんなに可愛い仕草で。

思わず理性が飛びそうになったという事は、自分だけの秘密にしておこう。


(もう冗談でもあかねの事、可愛くねーなんて言えそうにない、な。)

案の定、らんまは、あかねがストールを使う度にこの事を思い出して、彼女に憎まれ口をたたく事が激減していったのであった。


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